ベトナム農業・地方開発省では、2010年のベトナムからのコメの輸出量が悪くても現状維持の500万ないし600万トンに達するとの見通しを明らかにしました。
ベトナム労働総同盟機関紙「ラオドン」が18日付で報じたものです。
 これは、ベトナム域内で最大、世界でもトップの輸出量を誇るタイの年間輸出数量に、3分の2まで迫るもの。ベトナムが世界有数のコメ輸出国として、しっかりと認知されたのは紛れもない事実です。
 ベトナムのコメ栽培はベトナム全国で行われていますが、中でもメコン川河口に近い南部、いわゆるメコンデルタ地区と、北部のハノイに近い紅河(ホンホー)デルタでは、1年に複数回の栽培が行われる多期作が積極的に行われていて、収量、輸出量の増加に大きく貢献しています。
 特にベトナム メコンデルタの伸びが著しく、ベトナム全国の収量全体の4割を占めています。今後もベトナムの技術や品種の改良が進めば、さらに収量が増える可能性が指摘されています。
 紅河デルタでは年に2回の栽培をする「二期作」が中心。それに加えてメコンデルタでは、さらにもう1回の栽培を行う「三期作」がこの10年で主流になってきました。
 南ベトナム(ベトナム共和国)時代には一期作しかできなかったといいます。タイでもコメの二期作は、バンコク近郊などの一部でしか行われておらず、ベトナムに比較的近いイサーン(タイ北東部)では一期作が主流です。それが多期作へと向かい始めたのは、比較的新しい時代です。

 ベトナムで二期作が本格的に普及したのはサイゴン陥落以降、すなわち社会主義共和国成立後です。
 しかし二期作であってもメコン川の水位が上昇する洪水期には、水田が使えなくなるのが普通だったのです。洪水期は4ヶ月ほどで、残りの8ヶ月を2回に分けて4ヶ月ずつで栽培、収穫するという訳です。
 ベトナムで三期作が普及したのは、党が1980年代以降押し進めてきたドイモイ(改革開放)政策によって、自作農が増えただけが理由ではありません。

 その理由として、独立行政法人農業環境技術研究所(茨城県つくば市)が地球観測衛星を使って分析を行い、ベトナム社会主義化後にメコン川本流への堤防建設を積極的に行ったことが理由だと発表しました。
農業環境技研「研究成果情報」23集より引用:
 作付け回数が年2回から年3回に増加している領域が抽出され、現地調査の結果、この領域が堤防建設によって洪水期の栽培が可能になった地域を示していることが分かりました。

 これによってベトナムは洪水期に水田が水没することがなくなり、洪水期の4ヶ月も栽培を行うことができるようになったのです。
 即ち、ベトナムでは1年12ヶ月を3~4ヶ月ずつ、3回に分けて栽培をするということです。
 例えば紅河デルタでは2月に1回目の田植えをして5月から6月に収穫。7月になると2回目の田植えがあって10月ないしは11月に収穫するというスケジュールですが、三期作ではこのスケジュールが詰まり、6月の収穫直後に2回目の田植え。10月の収穫が終わったらすぐに3回目の田植えが待っているということになります。

 メコンデルタでは1回の栽培で、10アールあたり400kgから500kgのコメが取れます。
 つまり、3回栽培すれば年間の収量は1.2tないし1.5tに達します。
 これに対し、紅河デルタでは10アールあたり600kg前後まで伸びているにもかかわらず、機械化の遅れから伸び悩みが目立ち始めています。農業地方開発省では2010年のコメの年間総収量を3,900万トンと予想。そのうちメコンデルタ地区で2,000万トン近い生産を見込みます。 ところが、農業開発省はこれから10年間の人口増加と農業人口の減少で、早ければ2020年にはコメの輸出ができなくなる可能性があるという悲観的な見方も持っています。
 ベトナムは年間200万人近いペースで人口が増えていて、2020年には1億人達成が予想されています。そうなると、国民の主食という絶対必須の内需に回るコメがその分増えるということになり、必然的に輸出に回せる量は減ります。1億人の人口を抱える国の主食を自給するというのは、並大抵のことではありません。

 それに加えて、サイゴン陥落後すぐから農業に取り組んだ世代の引退が出始めたり、農地から非農地への転用が進むなどするというのです。
 2020年ということは、サイゴン陥落後45年。1970年代後半から農業に取り組んだ世代は60歳を超えると予想され、世代交代をしっかりとしていかないと農業人口の減少につながります。農家自体の数には困らないでしょうけど、日本と同様に技術や意欲を持った若い農家を育てていくことが課題として浮かび上がってきています。

 2009年にベトナムから輸出されたコメは約600万トン。今年も500万トン以下に落ちることはないと見ており、そのために三期作を行える耕地面積を拡大することが課題とされました。 紅河デルタでは三期作までは無理なので、メコンデルタの農地開発に積極的な投資を行い、農村のレベルアップに努めてきました。その結果輸出に回せるコメはほとんどがメコンデルタ地区の省で栽培されるほどになりました。

 しかも、輸出に回す際の価格がタイに比べて安いことから、ベトナムのコメは一気にASEAN圏内市場を席巻していきました。 フィリピンが昨年11月に行った輸入米の入札ではタイの輸出商社を抑えて全勝。実際、ベトナムから輸出されるコメのうち、かなりの割合がフィリピンに流れているといいます。現にフィリピンはコメの輸入量が世界一になっており、ベトナムへの依存度が日に日に増しています。

 ベトナム米のフィリピンに次ぐ輸出先として注目されているのが、アフリカ諸国です。
 タイはいち早くこの分野に注目し、ナイジェリアから大量の注文を安定的に獲得。今やタイ米の輸出高の半分以上がアフリカ向けだといいます。ベトナムもこの分野での出遅れをカバーするため、モザンビークやシエラレオネなどアフリカの最後発途上国に技術支援もしつつ、輸出量を増やす努力をしています。

 実際に、国民の主食となるコメを確保することを第一として、コメの輸出量に制限を加える「数量割り当て」の制度が導入されたこともありました。
 2005年に517万トンに達したベトナムからの輸出量は、数量割り当て制の効果もあってその後は400万から500万トンの範囲で推移していました。しかし、実際の出荷を行うコメ商社は事業拡大の足かせになるとして猛反対。省政府も、地方の振興に逆行するとして中央政府に何度となく申し入れをしてきました。

 その結果、農業・地方開発省では2009年9月、年間輸出量のピーク値を大きく上回る700万トンに割り当て数量を設定し直し、実質的に規制を撤廃する方針を打ち出しました。 2009年のベトナムからのコメ輸出は2005年のピークを上回る600万トンに達し、今年も同水準なら、世界のコメ需給動向もあって、業界全体としては増収を確保できるとしています。しかし、1位のタイに伍するには、まだ300万トンもの差があります。三期作可能な耕地面積を増やす努力が行われていますがそれも限界が迫っています。

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