アジアで地球温暖化の原因となる温室効果ガスの排出量が最も伸びているのは、なんとベトナムなのだそうです。絶対量では中国や日本にかないませんが、ドイモイ政策以後の経済の圧倒的な伸びと、それまでの整備の遅れが伸び率を大きなものにしているといいます。
時事通信から引用:
ベトナムは急速な経済成長に伴うエネルギー需要の増大で、温室効果ガスの排出量も急増。1990~2006年の排出量増加率は年間平均11.5%とアジア主要国でトップだった(日本は0.7%、中国は6.5%)。
そこで日本の独立行政法人国際協力機構(JICA)では、気候変動に関連するベトナムの政策を支援するため、円借款の投入を決めました。旧宗主国フランスも参加する国際共同プロジェクトです。
時事通信から引用:
国際協力機構(JICA)は18日、ベトナム政府が策定した「気候変動対策にかかる国家目標プログラム(NTP-RCC)」の実施を支援するため、同政府と100億円を限度とする円借款契約に調印した。再生可能エネルギー開発・利用の促進や省エネの推進、森林面積減少の抑制など、具体的な対策を後押しする。
ベトナムは内陸国のラオスと違って、海に面しているため地球温暖化による海面上昇の影響は計り知れません。米輸出の半分以上を担っているメコンデルタ地方の農地が水没してしまうという、最悪の展開も考えないといけません。
時事通信から引用:
3400キロに達する長い海岸線や広大なデルタ地帯があるため、海面が1メートル上昇すると被害は国民の11%に及び、国内総生産(GDP)を10%押し下げると試算されるなど、気候変動の影響を最も受けやすい国の一つとされている。
今年予定されているコメの輸出は、600万トンに上ると見られています。そのうちメコンデルタ地方の水田で取れるのが半分以上。前にも書いたように、ベトナム中部より北では1期作しかできないところが多いのに対し、メコンデルタでは3期作が奨励されていることもあって収量がどんどん増えています。そんなメコンデルタ地方の土地のほとんどは、海抜2メートル以下の低地。ホーチミンシティ行政圏も海抜2メートル強しかありません。ゼロメートル地帯や、雨季には浸水する地域もあります。そこに地球温暖化の影響が及んで、常時水没となればお話になりません。地球環境の悪化は、油田以前からのベトナムの基礎であるコメ農業に大きな影響を及ぼすのです。
国際協力機構では、この分野への取り組みを強化していて、2008年には「気候変動にかかる取り組みの方向性」という文書を出しました。今回のベトナムへの借款供与は、この基準に沿うものと認識されました。
国際協力機構ホームページから引用:
途上国の多くは貧困対策を重視し、また温室効果ガス削減義務を負っていないことから、温暖化対策だけを目的にした協力は途上国にとって魅力が乏しい。排出削減と経済成長を両立させ、気候の安定化に貢献していこうとする途上国の努力を積極的に支援する一体的な協力枠組みを構築し、開発便益と温室効果ガス削減とを同時に達成しうる「コベネフィット型」の協力を展開していく。
資金の多くは、メコンデルタ地方の農地保護に投入されるとみられています。省エネルギーなどの鉱産資源に関する取り組みは結局、ホーチミンシティなど大都市圏におけるモーターバイク利用の抑制、すなわちMRTや路面電車といった公共交通機関の充実に充てられることになります。モーターバイクの排出ガスに絡む炭酸ガスの排出量は1台単位では気にならないんでしょうけど、数十万台数百万台となればバカになりません。特にホーチミンシティ行政圏では周辺各省からの長距離走行だけで1日100万台というデータがあり、そこから排出される炭酸ガスの量は想像もつきません。
MRTが開通すれば、1本の列車に1,000人乗せることができたとして、モーターバイク1,000台分(2人乗りは考慮しない)の炭酸ガス排出を食い止めることができるのです。それを5分間隔とかで運転すれば、1日の利用者10万人としても、バイク10万台分!! それは、必ずやメコンデルタ地方の環境保全として跳ね返ってくるのです。
同様にして公共バスの強化も重要。公共バスの利用者が増えれば当然、モーターバイクの利用は減ります。バンコクではほとんどの通りに網の目のようにバス路線網が張り巡らされていますが、ホーチミンシティでも路線の再強化が必要になってきています。カントーなどの地方都市でも重要度は変わりません。
農地を守り、国益を守るには、国民一人一人の意識改革が必要。今回供与される円借款は、ベトナムにおける環境意識の向上に貢献することが強く期待されています。削減義務はなくても配慮はする。それがベトナムの国益をより大きなものにしていきます。