タイ政府商業省は21日、過剰在庫となっていたコメ37万5,000トンを一般競争入札で売却しようとしました。ところが、この入札で談合があった可能性が指摘され、最悪の場合には入札が白紙撤回される可能性が出てきました。しかも、背景にはベトナムの輸出量増加によってタイの業者に焦りが見えていることがあるとする見方が一部で出ています。

 21日の入札では商業省と農林農協省が指定する倉庫に保管されていた白米(カオパオ)30万トンと、もち米(カオニャオ)75,000トンを放出するとし、コメ輸出業協会(米業公会)に加盟する22の輸出業者が応札しました。ところが、どの会社も市場の相場価格を下回る水準で応札したため、事前に談合が行われた可能性があるとする商業省関係者の指摘を、日本の時事通信が入手したことが明らかになりました。

 商業省では各社の応札価格を確認後、25日までに審査を行って落札者を決定、売却契約するつもりでした。しかし商業省は「各社の応札価格が相場に比べて20%から30%低く、このままの値段で落札を決定すれば国庫が巨額の赤字を被る」として、落札の決定を延期。そして27日の省内会議で入札自体の不成立が決まりました。それだけでなく、コメ輸出業協会と加盟社に経済犯罪取締局の捜査の手が及ぶ可能性もあるというのです。

 コメ輸出業協会のチュキアット・オプハスウォンセ会長は、

「タイ産のコメの値段がベトナム産のそれに比べて高く、タイとベトナムの輸出業者が競い合う国へコメを出すタイの業者にとってはハイリスクだ」

と述べました。
 チュキアット会長は続けて「入札自体の白紙撤回には絶対反対。加盟各社は適正価格で応札したつもり」と続け、相場価格よりも低い値段での応札であっても市場動向を綿密に分析して何とか利益を出せる、即ちベトナムとの競争を勝ち抜けるだけのギリギリの線を渡ってきたと説明しました。
 例えば世界最大のコメ輸入国となったフィリピンでは、同じASEAN圏でしかも距離が近いということもあり、タイとベトナムが受注合戦を繰り広げてきました。現にベトナムは2009年、史上最高を記録した輸出高約600万トンのうち、半分弱をフィリピン1カ国に集中的に輸出しています。しかし、タイは900万トンの輸出高のうち、半分以上をアフリカ諸国に輸出。フィリピンへの輸出が占める割合は減る一方です。その上、タイの主力市場だったアフリカ諸国向けの輸出でも、ベトナムが伸びてきています。

 ここで、ベトナムがコメの輸出競争力を高めてきた背景に、価格格差があるとチュキアット会長は指摘しているのです。
 タイ米の海外への輸出価格は1トンあたり約600ドル(2010年1月現在)。これに対し、ベトナム米の輸出価格は3分の2程度だといい、今回の入札では、その間を取って1トンあたり500ドル前後となるように価格を調整してきました。
 少しでも安くコメを調達したい輸入国は、タイ米を敬遠してベトナム米にシフトする傾向が出てきています。特にフィリピンが2009年11月に行った輸入米の入札では、60万トンの枠をベトナムが総取り。タイの業者は1トンも落札できず、これでタイ側の焦りが一気に表面化してきました。
 このときチュキアット会長は、商業省と農林農協省に在庫米(日本の政府米=現在の標準価格米に相当)の放出を要求。タイでは景気対策としてバーク銀行(BAAC、農協金融公庫)を通じて、各農家の収穫したコメを担保に融資を提供してきました。このためにバーク銀行を通じて市場から吸い上げられたコメが、農林農協省指定の倉庫に積み上がっていて、日本でいうところの古米や古々米になってもなお、輸出に回らない物も出てきています。
 今回入札に回った在庫米の中には、2008年乾期作(いわゆる古々米)が10万トン含まれていると一部の報道機関が指摘。タイはベトナムにコメの鮮度の面でも負ける状況の中で、業者の焦りは一層深刻になっています。

 チュキアット会長は

「入札が白紙撤回され、在庫米が放出されないとなれば最悪の場合、タイがこれまで築いてきた輸出市場が失われる事態になる。平たく言うならベトナムに奪われてしまう」

と結びました。2009年のタイのコメ輸出高は862万トンで、ベトナムとの差は262万トン。あと2~3年で並ぶ可能性は低いとはいえ、ベトナムがコメ大国としてしっかりとした地位を築いたのは確かです。タイとベトナムのコメ輸出をめぐる激しい争いは、今後の業界動向を占うにあたって重要なポイントといえそうです。