ベトナム難民2世としてタイで生まれ育ち、ベトナム国民として認められていないにもかかわらず、強制送還先をベトナムに指定された男性2人が日本法務省を相手取って処分の取り消しを求めていた裁判で、東京地方裁判所は2月19日、国外退去命令を取り消して帰国先を再検討するよう命じる判決を下しました。
訴えを起こしていたのは、ダンゴー・ロンさん(52)と、ホンワン・ティーさん(48)の2人。東京地方裁判所では、民事38(行政)部の杉原則彦判事を裁判長とする3人の裁判官で審理を担当しました。
朝日新聞から引用:
2人は1945年のベトナム独立戦争以降のインドシナ戦争でタイに逃れた難民の子どもで、タイで生まれ育ち、家族もタイにいる。
第1次インドシナ戦争、ベトナム戦争、さらには社会主義共和国発足後の難民としてタイに逃げてきたベトナム人は分かっているだけで140万人を超えるといいます。難民キャンプの中で2世以降となる子供が生まれるのはごく当たり前ですが、当時キャンプ内は事実上の無国籍状態にあり、属地主義を適用して子供にキャンプ所在地の国籍を与えた国はごく少数でした。
ロンさんとティさんもその中の1人で、タイにあったベトナム難民キャンプの生まれ。属地主義が適用されるなら当然タイ国民IDカードが発給されて然るべきですが、タイがベトナム難民キャンプ出身の2世に対して国籍取得を認めるようになったのは、社会主義共和国発足後のボートピープル流出が落ち着いた1990年代になってからでした。
朝日新聞から引用:
2人は1991年に出稼ぎのため日本に不法入国。約16年後に入管法違反罪で摘発され、その後、送還先をベトナムとする退去命令を受けた。
ところが、2人の生まれた国はタイ。ベトナムには1度も住んだことはありません。このため、東京入国管理局の担当官は送還に必要な移送先の選択について説明を怠ったため、ベトナムへの送還と判断してしまいます。このため、処分取り消しとタイへの送還を求めて東京地方裁判所に裁判を起こします。
読売新聞から引用:
入管難民法の規定では、不法入国などの外国人を強制退去させる場合、原則として国籍国に送還するが、それができない時は、その直前に住んでいた国などに送ることもできる(入管難民法53条の2)。
判決では、2人の国籍がベトナムに帰属するかは提出された証拠からは明らかではないと判断。その上で、ベトナム国民であったとしてベトナムに送還するにしても、社会主義共和国体制に受け入れられないとしました。
朝日新聞から引用:
判決はベトナム難民について「ベトナム側は公的な書類がない限り、ベトナム人として受け入れない対応をしている」と指摘。
このまま行くと、無国籍者としてのタイからの出国も不法であることから、タイへの再入国も難しいというのです。
朝日新聞から引用:
2人は不法にタイから出国したため、国籍取得や再入国が難しいという。
従って日本で在留特別許可を得られなければ、世界のどこの国にも正式に行くことはできない。当然、タイに残してきた家族に会うこともできません。東日本入国管理センター(茨城県牛久市)、西日本入国管理センター(大阪府茨木市)、大村入国管理センター(長崎県大村市)では、2人と同じ境遇のベトナム難民2世が約20人、強制送還できないまま事実上の無期限収容状態になっていると担当弁護人が述べています。
今後は、2人が日本の在留特別許可を勝ち取れるかが争点になりそうです。