工業化が進むベトナムでは、環境汚染も深刻な問題になりつつあります。四大公害病などが社会問題化していた1960年代から70年代にかけての日本と同じ状況が、ベトナムでも起こる可能性があるとして政府は対策を検討しています。
VIETJOから引用:
資源環境省は1日、「2009年工業団地の環境状況」の報告書を発表した。それによると、全国の工業団地で排出されている排水(1日当たり約100万立方メートル)のうち、処理されずに環境中に垂れ流されている排水は約70%を占めている。工業団地の57%には、集中排水処理施設がまだ設置されていない。
工場から処理されずに垂れ流される雑排水は生活に極めて危険です。日本の水俣病もチッソ(旧社名新日本窒素肥料)水俣工場の雑排水に有機水銀が含まれていたにもかかわらず、工場内での浄化処理がなされずに排水路へ流されていたことから始まります。
日本語Wikipediaの「水俣病」のページから引用:
工場は触媒の反応過程で副生されたアルキル水銀化合物(主として塩化メチル水銀)を排水とし、特に1950年代から60年代にかけて水俣湾(八代海)にほぼ未処理のまま多量に廃棄した。そのため、魚にメチル水銀の生体濃縮が起こり、これを日常的に多量に摂取した沿岸部住民等への被害が発生した。
同様にしてイタイイタイ病も、三井金属神岡鉱業所(現・神岡鉱業)から排出されたカドミウムが神通川の水に混じって溶け出し、下流の富山市(旧婦中町)の土壌に蓄積したことに起源を発します。即ち、雑排水を下手に扱うことは長期的に公害の原因になっていくと断定することができるのです。
タイでもマプタプット(ラヨーン県)工業団地で同様の公害問題が起こり、工場の新規建設に待ったがかかる事態になっています。中にはタイへの進出を見送ってベトナムでという会社もあり、そうなるといつ、どこで公害の原因物質が出るか、予測もつきません。
四日市ぜんそくのような大気汚染が原因の公害病も徐々に広がりつつあります。ベトナム初の製油所となったズンクワット製油所はハノイやホーチミンシティといった大都市からだいぶ離れているとはいえ、気を抜くことはできません。第2の製油所となるギソンはもっとハノイに近づきます。さらに第3の製油所となるとホーチミンシティに近くなるので、リスクは余計に高まります。
VIETJOから引用:
工業団地の大気汚染も問題で、特に初期に建設された工業団地では旧式の技術を使用し排気処理装置のない工場が多いため、深刻な大気汚染を引き起こしている。
製油所から出る大気汚染物質の代表的なものとしては、亜硫酸ガス(二酸化硫黄)があります。四日市ぜんそくがその最たる例。ベトナムは去年、ズンクワットが完成するまで独自の製油所を持っていなかったため、ズンクワットにも最先端の水素化脱硫装置が投入されていますが、問題はそれ以前に造成された工業団地やビナコミンなど石炭産業。そこから出る亜硫酸ガスは問題になりつつあります。
自動車やモーターバイクの排気ガスから出る窒素酸化物も看過できません。特にベトナムはアジア屈指のモーターバイク王国だけに尚更です。前にも書きましたがホンダ(本田技研工業)はタイ向けの二輪車をPGM-FI(電子制御式燃料噴射装置)搭載に切り替えた後も、ベトナムで従来型のキャブレター式エンジンを積んだモーターバイクをまだ生産しており、スズキもキャブレター式エンジンに需要を見出しています。
バンコクで編集されている「デイリーNNAタイ版」から引用:
(スズキは)今後もキャブレターバイクの販売を強化する方針。同社は全モデルで、排ガス抑制、省燃費機能の高いキャブレターを搭載して、競争力を強化している。「今後2~3年は、さらに販売台数を伸ばせるだろう」と期待を示した。一方、フューエルインジェクション(FI)搭載バイクは新技術を導入した高価格帯モデルに絞って投入する考え。
バンコクだけで数百万台のバイクが走っていて、タイの社会人の多くはバイクを持っているというのに、ホーチミンシティでは事実上、自転車の代わりになっています。バイクを持つのは大人になった証、1人1台ないと日々の生活すら成り立たないとも言われるほどのバイク王国ベトナム。その分環境への影響も大きくなってきます。前に取り上げた低品質ガソリンがさらに状況を悪化させる。工業団地とともに、生活に直結する下流の環境問題も考えなければいけない時代になりました。