日本では人が死亡したら、火葬にするのが100%常識。妊娠4ヶ月以降に死産、流産した胎児も同様とされています。住んでいた、または死亡した場所の自治体に遺族が死亡届を出して、火葬埋葬許可をもらいます。

総務省ホームページ「法令データ情報」から引用:
墓地、埋葬等に関する法律第8条;
市町村長が、第5条の規定により、埋葬、改葬又は火葬の許可を与えるときは、埋葬許可証、改葬許可証又は火葬許可証を交付しなければならない。
同法第9条;
死体の埋葬又は火葬を行う者がないとき又は判明しないときは、死亡地の市町村長が、これを行わなければならない。

 ところがベトナムでは、土にそのまま埋める「土葬」を行った後、数年経ってからお墓を掘り返して遺骨を洗う「洗骨葬」の文化があります。洗骨葬は、日本でも奄美諸島や沖縄で行われていて、琉球王朝時代には王族も洗骨で葬られていたといいます。中国南部や韓国、北朝鮮でも長く行われてきました。

国立大学法人琉球大学論文ライブラリ「奄美諸島における聖地および葬地の人類学的共同研究」から引用:
 徳之島の伝統的な墓制は、主として徳之島町が土葬地帯であり、伊仙町、天城町は洗骨地帯である。伊仙町は火葬場が徳之島町に建設された1967年以来、ほとんどが火葬だが、洗骨が全くなくなっているわけではない

 これが地方の少数民族になると、洗骨も行わないまったくの土葬もあります。サイゴン陥落後の社会主義共和国時代になって、ハノイ首都圏やホーチミンシティ行政圏などの大都市を中心に、火葬も増えてきました。しかし、都市部でも低所得層は火葬の費用を出すことができず、土葬にする人が後を絶ちません。洗骨の慣習にこだわる古くからの住民もいます。そこでハノイ首都圏人民委員会(役所に相当)では、土葬や洗骨葬から火葬への移行をスムーズにするため、補助金を出すことにしました。

VIETJOから引用:
 ハノイ市人民委員会はこのほど、家族の葬儀を行う際に従来の土葬ではなく火葬を行うよう奨励する決定を公布した。

 どこの世界でも、火葬をするには費用がかかります。インドでは火葬の燃料にする薪を買うことすらできず、バラナシ市内のガートでお金ではなく現物の薪を恵んでくれるのを待つ、乞食ならぬ、薪乞いをする人すらいます。今回、ハノイ首都圏人民委員会は、首都行政圏内に住民登録されている市民が死亡した後、遺体を市内の火葬場に運んで火葬した場合、遺族に補助金を支給することにしたといいます。

VIETJOから引用:
 市内の火葬施設で火葬を行えば、家族に市から補助金が支給される。補助金額は、亡くなった人が6歳以上の場合は一体に付き300万ドン(約1万4,000円)、6歳未満の場合は150万ドン(約6,900円)。

 日本でも火葬補助金の制度があります。今回ベトナムで導入された制度は、これにヒントを得たのではないかと思われます。

一般財団法人東京社会保険協会のホームページから引用:
 被保険者が業務外の事由によって死亡したときは、埋葬を行ったその家族に埋葬料が、家族がいないときは埋葬を行った方に埋葬費が支給されます。また、被扶養者が死亡したときには、家族埋葬料が支給されます。

 例えば国民健康保険では、自治体により変動があるものの5万円から最大10万円で、東京23区内では7万円だといいます。協会けんぽでは家族10万円、本人の場合は生前最後の給料の1ヶ月分相当額(下限10万円、上限98万円)!! その他、各区市町村の判断で火葬補助金が支給されることがあります。
 さらに生活保護受給者であれば、死亡から火葬までの費用を保護費から支出する「福祉葬」も可能です。

 ベトナムは今後10年間で人口が1億人に達する可能性が高く、死亡する人の数もその分増えます。土葬では火葬に比べて広い場所の確保が必要ですが国土の狭いベトナムでは、収めきれなくなって川や海へ火葬せずに流してしまう(水葬)ことになってはそれこそお話になりません。ハノイ首都圏人民委員会では、火葬を広く普及させることは国土の有効利用につながり、中長期的な国家の安定にも資すると判断したようです。

 ただ、使用料が最大のネックであることに変わりはないだけに、これまで一部の上流階層か熱心な北伝仏教徒でなければ使えなかった火葬が低所得の一般市民にまで広く普及するか、市側の対応に期待がかかります。

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