中華文化圏では亡くなった人の棺に「冥器」を入れて、火葬するという習慣があります。古代から中国の影響を強く受けてきたベトナムやタイでも華僑社会内で今でも広く行われていますが、その一種である「冥金」を外貨両替の時に渡して本当に使わせようとした詐欺師が、警察に逮捕されました。

VIETJOから引用:
 ハノイ市ホアンキエム区ドンスアン地区警察は25日、外国人観光客に銀行より有利なレートで両替すると言って冥器の一種である架空の紙幣「冥金」と500オーストラリアドル(約4万円)を交換したレ・バン・クイン容疑者(35歳・男)を現行犯逮捕した。

 冥金というのは、紙幣を模したもので、棺の中に入れて燃やすと、その額面分があの世にいる神仏や霊に渡ると信じられてきました。特に生前に燃やされた分は、死後の世界で貯金になるという言い伝えもありました。そして、遺された家族も冥金を棺に入れることで、自身の原罪も赦されるという、キリスト教の概念に近い教えも広がっていました。

 冥器を棺の中に仕込んで火葬する文化は、2000年以上前の漢の時代の中国から始まり、清朝以降の華僑文化の広がりとともに、ベトナムやタイ、マレーシアといった東南アジアの中華文化圏に広がっていきました。現在のように紙幣を入れる「冥金」が確立したのは、中華民国時代に近代的な通貨制度が整備されてからです。

 現代の中華文化圏では、アメリカドルや香港ドル、人民元、台湾元、タイバーツなどデザインを使った冥金が売られています。米ドルであれば現行のデザインをそのまま使って白黒で刷ったり、香港ドルであればホログラムや透かしを入れないという方法が使われます。

ベトナムスケッチから引用:
 お札には、「地府/Dia Phu」「心霊/Tam Linh」などの、架空の発行元銀行名も印刷されている。50万ベトナムドン札や100US$紙幣以外に、50万ベトナム$紙幣という架空のお札もある。

 また、過去に中華民国(新中国成立以前の大陸を実効支配していた時代)で発行されていた紙幣のデザインを使ったり、発行銀行名を変えたりする例もみられます。そして今では、銀行のキャッシュカードを真似た「冥界銀行」なるカードも売られるようになりました。

VIETJOから引用:
 お盆シーズンが到来すると、世相を反映した新たな冥器が続々と登場している。例えば、最近一般に普及が著しい銀行のATMカードを模した冥器もよく売れており、売り子は「これさえあれば死者があの世で金に困ることはない」と力説する。

 冥金は、現実世界の商行為には当然のことながら使用できません。しかし、精巧に作られたドル札ベースの冥金は、ニセ札として通用することもあるといい、北朝鮮から流れているとみられる「スーパーノート」と同様に、中華文化圏各国の金融当局は警戒を強めています。

ソウルで編集されている「DailyNK」から引用:
 北朝鮮は昨年、政府レベルで行っている大規模な麻薬取引はないと主張したが、現在も100ドルの偽札であるスーパーノートの製造と流通はもちろん、偽タバコの取引も続けていることがわかった。

 ベトナムドンの冥金には、現行の紙幣とまったく同じポリマー素材で作られたものもあり、ちょっと見ただけでは本物の紙幣と間違えて現実世界に流通してしまう可能性もあります。政府では、ドン紙幣の冥金の製造を差し止める一度はします。

VIETJOから引用:
 ハノイ市情報通信局は(1月)12日、現在流通しているポリマー製紙幣を模した各種冥金紙幣(冥器の一種)の印刷を許可しないと発表した。(中略)業者からポリマー製冥金の印刷許可申請を受けた同局は国家銀行(中央銀行)と対応を協議、中銀は本物の紙幣と酷似しており混乱を招きかねないとして、同局に印刷を許可しないよう要請した。

 しかし、ハノイ市人民委員会が許可しないと発表した時点で、ポリマー製の冥金は、既に市場に出回っていました。

VIETJOから引用:
 ポリマー製の冥金はすでにハノイ市や周辺省の市場などで売られており、これらの冥金は本物の紙幣とほぼ同じ大きさでデザインも似ているという。

 クイン容疑者は、これを逆手に取ったようです。ホアンキエム湖近くの旧市街で宿を探していた欧米人旅行者を相手に、ガイドを装って近づき、銀行や両替所よりも有利に両替してやると持ちかけました。そして市内の市場で入手した現行ベトナムドンとよく似たデザインの冥金を渡そうとしたところを、パトロール中の警察官に見つかり、あえなく御用となってしまいました。

VIETJOから引用:
 警察の調べによると、クイン容疑者は同市旧市街地区を観光中のオーストラリア人男性に英語で話しかけ、観光案内を買って出た。同容疑者は、オーストラリアドルをベトナムドンに両替したいと話した男性に、自分なら銀行より有利なレートで交換できるといって冥金を渡している現場を発見された。 

 これからベトナムを旅行される皆さんも街中の両替商にはご用心。怪しい紙幣を見かけたら、すぐに警察へ連絡してください。 

メインメニュー

ベトナムこぼれ話一覧

携帯サイト