東南アジアの主要都市で、オフィスビルの賃料が一番高いところは一体どこでしょうか? シンガポールという答えをする方がほとんどでしょう。しかし、2009年の調査では、違う答えが出ました。
時事通信から引用:
日本貿易振興機構(ジェトロ)はこのほど、ホーチミンシティのオフィス賃料が東南アジア諸国連合(ASEAN)域内で最も高く、平均で1平方メートル当たり月57ドルにまで上昇していると発表した。
なぜ、シンガポールよりも物価の安いホーチミンシティが、オフィスの賃料ではASEAN域内で一番になるのでしょう? その最大の理由は、何と言ってもオフィス面積の絶対的な不足です。ホーチミンシティでは旧共和国(南ベトナム)時代からの建物もそれなりに残っていますし、社会主義共和国発足後も西側多国籍企業の進出が遅れた関係もあって、オフィスの需要に供給が追いつかなくなっています。そのためにホーチミンシティに事務所を置きたくても置けず、やむなくバンコクやシンガポールからの出張で対応している企業がいまだに多数を占めています。前の記事と同じ引用文を出しますが、日本の重電専門大手、富士電機もご他聞に漏れていませんでした。富士電機が駐在員事務所を開いたのは、今年の2月です。
富士電機ホールディングスのニュースリリースから引用:
これまで日本、シンガポールおよびタイの海外子会社からベトナム市場をサポートしてきましたが、現地に拠点を持つことにより、さらにキメ細かいサービス拡充を図り、ベトナムエリアでのお客様への支援体制を強化します。
一方ハノイでは、距離的に近い香港や中国(その多くが広州や深圳)からの出張で対応している企業が多く、ホーチミンシティでもバンコクではなく、香港からの出張対応になる企業が見られます。
NECロジスティクスのニュースリリースから引用:
ベトナム駐在員事務所は、中国を中心としたネットワークの拡充策の一環としてNECロジスティクス香港のベトナム駐在員事務所として設立されたものであり、同社では3ヶ所目(広州・アモイ・ベトナム)の駐在員事務所となります。
ちなみにハノイのオフィスビルの平均賃料はというと、1平米当たり42ドル。ホーチミンシティに比べれば3割ほど安くなりますが、それでもバンコクの平均額の2倍を軽く超えてしまいます。
シンガポールで発行されている「AsiaX」から引用:
不動産仲介の米コリアーズ・インターナショナルは、商業オフィス市場は最悪期を脱したと考えられるとの見解を示した。シンガポールの賃料は前期比0.5%上昇した。(中略)シンガポールは54.58米ドル(約5,100円)で3位。
バンコクの平均賃料は、驚くなかれ、わずか19.8ドルなのです。ここまで違うのには理由があります。物価に加えてオフィスビルの絶対数が多いこともあって需給バランスが供給過剰に向いているのが最大の理由です。前にも書いたようにベトナムはオフィスビルが絶対的な需要過剰ですので、短期から中期レベルでハノイやホーチミンシティの平均賃料がバンコク並みにまで下がることはまずあり得ないというのが大方の不動産屋さんの見方です。
バンコクではアジア通貨危機のときに33%という、空前の空室率を記録したことがあります。ーチミンシティやハノイがそこまでに達することはないでしょうが、今になってもなお需要が旺盛なのは、やはりベトナムが「遅れてきた」巨龍であることの証左といえます。
バンコクや香港からの出張をやめてベトナムに拠点を置こうという企業はこれからも増えることが予想されており、ますます需要が増えていくのは言うまでもありません。問題は、旺盛な需要に対して供給が追いついていくかです。供給が追いつかなければ企業を納得させられるだけの物件はどんどん高くなってしまいます。そうなれば逆に進出をためらう企業も出るはずです。
日本のバブルも真っ青のところまで賃料が高騰するのだけは何としても避けたいところ。国土の狭いベトナムの不動産事情は、これから正念場を迎えます。