国ごとの総人口のうち、文字の読み書きができる割合を「識字率」といいます。識字率は文化の程度を測る上で重要な統計であり、西側先進諸国では100%に限りなく近いものになって当たり前です。ベトナムでも、近年になって上昇する傾向が出ており、都市部では100%に近い数字を叩き出すようになりました。国勢調査指導委員会から発表された2009年4月1日現在の国勢調査結果報告(確定値)では、全国平均で94%という数字が出てきました。
VIETJOから引用:
15歳以上の成人識字率は1999年の90.3%から2009年には94%へ3.7%上昇。
ベトナムの義務教育は日本の小・中学校に相当する9年間が規定されています。しかし、ハノイ首都圏、ホーチミンシティ行政圏など大都市圏では9年間の学業を完成できるだけの学校数があるものの、それ以外の省では小学校に相当する前半の5年間分を遂行できるものの、中学校にあたる後半4年間分はまだまだ不十分だといいます。
日本外務省ホームページから引用:
ベトナムにおける義務教育は、小学校から中学校課程終了の第1~第9学年までであるが、ハノイなど都市部を除いたべトナム全体の就学は、小学校課程終了の第5学年までとなっている。一方、都市部を中心として、教育施設が児童生徒数に対して大幅に不足していることから、子どもたちは午前組・午後組の2つの登校組に分かれ、同一教室を2回使用する2部制が採用されている。
それでも、国語であるベトナム語の教育はしっかりと行われてきています。仏領インドシナ時代にはそれまで漢字や漢字の部首を応用して作られたベトナム文字とも言える「チュノム」で表記していたものを、ローマ字ベースで表記する現在のベトナム語が普及。民主共和国時代の1954年、チュノムを廃してローマ字表記に一本化します。タイやカンボジアなど他のインドシナ諸国がクメール文字をベースとする独自の文字を維持し続けたのに対し、ローマ字を採用したベトナムは民族本来の向学心の強さもあり、ベトナム戦争期の民主共和国、旧共和国、そして現在の社会主義共和国に至るまで国語教育のレベルを高く維持することに力を注いできました。
日本外務省ホームページから引用:
ベトナム人は、元来勉学に非常に熱心な民族で、昔から発展途上国の中では識字率は非常に高いと言われています。高校生のうち、数学や理科で優秀な成績を収めた生徒が各省や中央政府に表彰されるといった制度もあります。
これに対し、カンボジアやラオスではベトナムに比べると識字率が大きく劣ってきます。特にポルポト共産主義独裁時代に近代的教育が完全に破壊されたカンボジアで、45歳以上の中高年に絞ってみると、極めて深刻な数字が出てきます。
プノンペンで編集されている「カンボジアウォッチ」から引用:
65歳以上の老年層の識字率はわずか47.89%にとどまっており、男女格差も30ポイント以上開いている。国勢調査局のTaey Kheam局長はその原因として、「フランス植民地時代にはカンボジア人はほとんど教育を受ける機会を与えられなかった。地方には学校もまったくなく、学べたのは寺でだけだった」と述べた。
カンボジアと同様に、ベトナムでも少数民族の多い地方では教育レベルの向上が遅れている地域があるのも否めない事実です。特に少数民族の大多数が集中する北部の山岳地帯が深刻。ハノイ首都圏から北部山岳地帯は距離が比較的近いにもかかわらずこの事実があることを、ベトナムを理解するうえで忘れてはなりません。
VIETJOから引用:
最も低いのは北部ライチャウ省で59.4%。
小学校5年間を修了した後、中学校に行けないとなれば、当然労働力として見られることになってしまいます。前にも触れましたが特に女性の場合は、こどもを作るための「戦力」としても見られてしまうことがあります。実際、10代のうちに最初の子供を妊娠、出産する女性の数は、日本とは桁違いに多くなっています。
前記事「第2次ベビーブームを裏付けるデータが出た」から再出:
実際に10代前半で妊娠・出産する女性も日本の比ではありません。このためにベトナム政府は、中国の1人っ子政策に倣って、1家庭の子供を2人までに制限する政策を採りました。ところが、以前にも触れたように少数民族の女性の場合は例外で何人でもリスクなく産めるのです。
とはいえ、女性の識字率も着々と伸びており、ジェンダーフリーの面では進歩しつつあります。
VIETJOから引用:
性別別では男性が2.2%上昇したのに対し、女性は4.9%上昇と、識字率の男女差は縮小しつつある。
今後は、伝統的に遅れが目立ってきた少数民族出身の女子に対する国語教育の強化が課題となりそうです。