今後1年間に社会主義共和国が目指すところを決める、ベトナム国会が20日に開幕しました。ベトナム国会のシステムは、これまでに存在したどの社会主義国家にも負けない、民主的なものです。今日は、国会のシステムのお話をします。

 社会主義一党独裁制の国では、議会は指導政党ないし指導者の考えを盲目的、翼賛的に追認していくことだけが役割ととらわれがちです。旧ソ連ではそのようなスタイルでしたが、今は北朝鮮に残るだけで、他は必ずしもそうではありません。

 例えば中国では「政治協商会議」を通じて、中国共産党以外の野党各党や財界の意見も吸収した上で議会である全人代(全国人民代表大会)にかけられるスタイル。これに対してベトナムでは、共産党以外の政党結成が認められていないので、各界からの意見の吸収もすべて党が行い、その上で国会の会期中に日本と同様の真剣な議論が進められます。

 ベトナムの国会は、毎年5月から1ヶ月程度の会期が設定されています。

VIETJOから引用:
 国会常務委員会は16日、第12期第7回国会の日程を5月20日から6月25日までの29日間とすることを決めた。(中略)次期国会では12本の法律案、2本の決議案を審議・採決し、10本の法律案に意見を提出する予定となっている。

 社会主義国であったとしても、議会で真剣な議論がなされることによって個人独裁となるのを防ぐことができるのです。ベトナム共産党の良き伝統である徹底的な集団指導体制をうまく反映させています。さらに、国会に議案を出す行政の最高責任者である首相と、党組織の最高指導者であるベトナム共産党書記長、元首たる国家主席にすべて別人を就ける体制も、民主共和国時代の1950年代から社会主義共和国発足後に至るまで堅持されていていて、ある意味世界で最も民主的な社会主義一党支配体制であるといえます。

 日本の左翼過激勢力は「反スターリン主義」という言葉を使いましたが、ベトナム国会はいわば「非スターリン主義」、見方を変えて言うなら「科学的」ないしは「古典的」社会主義の実践で、先頭に立つ組織だということができるでしょう。日本では日本共産党が長年主張してきたのが正に科学的社会主義。ですから共産党関連の文献をかじっている方なら、ベトナム共産党に同じベクトルを見出すことができるはずです。

 会期の設定は、中国の全人代や全国政治協商会議が毎年3月に両方合わせて2週間から長いと3週間近く行われるのに倣ったとみられています。

東京で編集されている「ザイロンチャイナプレス」から引用:
 中国人民政治協商会議11回3次会議スポークスマンの趙啓正氏は同会議スケジュールを明らかにした。政治協商会議の会期は3月3日午後3時から13日午前までの11日間、北京天安門広場西側の人民大会堂で開催される。

 中国ではまず政治協商会議が先行して開幕し、その後に全人代が召集されるのが普通です。

上海で編集されている「東方ネット」から引用:
 会議は第11期全国人民代表大会第3回会議の日程を可決した。会議の日程により、今回の大会は3月5日午前に開幕、14日午前に閉幕、会期は9日間半。

 一方、同じ社会主義国でも北朝鮮の最高人民会議は毎年4月、会期は召集されても1日から長くて3日。北朝鮮はベトナムと違って、議会はほとんど活動していないのです。

韓国の聨合ニュース通信から引用:
 北朝鮮が、最高人民会議(国会に相当)第12期第3回会議を来月7日に平壌で開催する。 朝鮮中央通信は18日、「朝鮮民主主義人民共和国の最高人民会議召集に対する最高人民会議常任委員会決定が17日に発表された」とし、こうした日程を伝えた。

 北朝鮮は憲法上にこそ民主集中の原則に基づく民主主義手法が謳われていますが、ベトナムに比べて議会の影響力は圧倒的に弱く、最高人民会議は金正日総書記の政策指導を追認するだけ。ベトナム共産党ではまず考えられない革命政権の永続的世襲が行われていることもあって、最高人民会議は個人独裁体制を民主主義的に正当化するためのお飾りに過ぎません。年に1回の会議(代議員会議)に、上程される議題がろくになくて当然なのです。前回、今年4月に行われた最高人民会議代議員会議(国会の本会議に相当)も、わずか1日で議案の処理をすべて終えて閉会してしまいました。

東京で発行されている「朝鮮新報」から引用:
 最高人民会議第12期第2回会議が4月9日、平壌で召集される。これに対する最高人民会議常任委員会決定が(3月)18日に発表された。(中略)この時期に召集される最高人民会議では通常、国家予算案などが討議される。最高人民会議第12期第1回会議は、昨年4月9日に行われ、金正日総書記が国防委員会委員長に推戴された。

 ベトナムの国会は、他の社会主義国のそれに比べると全然重い役割を持つ、本来5年に1回の共産党大会をいわば毎年行っているのと同じような機関なのです。それだけに、今話題になっている新幹線などの重要な国家プロジェクトも最終的には国会の承認を得て決まります。