国営造船グループ(ビナシン)が重大危機に陥った一件で、警察に告発されていた同社経営トップが、書類送検を受けていた公安当局に逮捕されていたことが明らかになりました。容疑は日本の会社法の「特別背任」に相当するものです。ビナシン事件は、最大のヤマ場を迎えました。

時事通信から引用:
 4日のベトナム国営通信によると、公安省治安捜査局は同日、巨額の負債を抱え経営難に陥っている国営造船グループ(ビナシン)のファム・タイン・ビン前会長兼最高経営責任者(CEO)を、「経済管理に関する国の規則に反する不正を犯し、深刻な結果を招いた」疑いで逮捕した。

 前にも取り上げた通り、ビナシンは経営陣による誤った判断が響いて巨額の負債を抱えています。日本でいえば、それこそ日本航空のように会社更生法を適用しなければいけない状態に陥っています。その負債総額は、債務超過にこそなっていないものの総資産規模の90%近くに達しています。それが原因で必要な鋼材などの調達が遅れたりして、現在抱えている建造案件の引渡しが遅れるなどの支障も出ています。

前記事「ベトナム初建造の自動車運搬船が完成」から再出:
 8隻はハロン造船所(クアンニン省)で順次建造が進められましたが、2008年に予定されていた1番船の進水はリーマンショック以降の不景気もあって、1年近く遅れました。それでもビナシンはレイ社や郵船としっかり連携して遅れを回復。今回完成したビクトリーリーダー号が1番手として2009年7月に進水しました。

 ビナシンが重大危機に陥ったのは、確かにリーマンショック以降の世界経済の後退による部分もあります。受注のキャンセルや納期の遅れといったトラブルは、リーマンショック後に出てきたものが多くを占めているといいます。それを克服するための努力は、継続すべき既存案件とキャンセルされた案件に代わる新規の受注だけでできるものではありません。

ビナファイナンスドットコムから引用:
 ビナシンはこれまでに重要な技術基盤を形成し、28カ所の造船所が先進技術をもって活動している。その品質は世界から認められ、信頼を得てきた。2009年3月までに120億ドル相当の契約を受注したが、08年の世界的な経済不況を克服しようとして、債務を返済するために新たな借金をしなければならなくなり、その結果、09年以降、経営状態は赤字となってしまった。

 しかし、リーマンショックだけが原因のすべてではないことも明白になっています。マレーシア資本との合弁による製鉄所建設計画はあっという間に頓挫してしまいます。損失はそれだけでなんと2,000億円に達しうるとの試算もあります。他にもビナシンの経営判断の誤りはいくつも指摘されており、ついには営業赤字のはずの財務諸表を黒字に書き換えてしまう、粉飾決算に踏み切ってしまいます。こうしてビナシンの危機はより一層深刻なものになっていきました。

ビナファイナンスドットコムから引用:
 その結果、09年以降、経営状態は赤字となってしまった。09年及び10年第1四半期は赤字だったにもかかわらず黒字報告していた。社内監査にも問題があり、政府は「こうしたビナシンの体質を深刻なものととらえ、再生を目指して同社の再編を決定した」などと説明した。

 国営企業の会長兼CEOは社内に設置される党委員会の書記を兼務する規定のため、ついに党中央検査委員会が出動。経営トップであるビン会長が主導したとみなし、党トップであるノン・ドゥック・マイン書記長とグエン・タン・ズン首相にビン会長を解職するよう進言。7月13日付でビナシン会長の職を失うことになります。

VIETJOから引用:
 7月12日、ベトナム共産党中央検査委員会は、ビン会長(当時)にはビナシンの経営管理にあたって多くの重大な誤りや違反行為があり刑法の規定に違反した疑いがあるとして、関連書類を捜査当局に送付した。翌13日、グエン・タン・ズン首相はビン会長を停職処分にした。

 そして、事件は党検査委員会から公安省へと捜査の場を移し、8月4日、公安省はビン前会長を逮捕して取り調べる必要があると最終判断しました。

 ビン前会長の直接の容疑は、「国の経済管理に関する規則に反する不正」とされていますが、これはベトナムでは刑法犯罪なのに対し、日本では会社法(旧商法)に規定される「特別背任」にあたります。日本の刑法の背任罪が5年以下の懲役または50万円以下の罰金と比較的軽いのに対し、企業の取締役または執行役員を対象とする特別背任罪は、10年以下の懲役または1,000万円以下の罰金と一気に重くなります。中国、北朝鮮では実際に死刑になった例もあります。