ベトナム原産のナマズの一種「バサ」が、日本やアメリカで白身魚のフライに使われるなど需要を伸ばしていることは前にここでも取り上げました。寿司のネタや刺身に使われる高級魚の調達に四苦八苦している日本の商社や水産加工メーカーは、もう次の魚に目をつけ始めています。
時事通信から引用:
ブリ、カンパチに次ぐ刺し身用の養殖魚として最近、ベトナム産の「スギ」という魚が東京・築地市場(中央区)で頭角を現してきた。脂が乗り、こりっとした歯応えが特長で、同市場卸や輸入商社はさまざまな料理に合うとPRしている。
スギはブリやアジ、タイなどと同系のスズキ目スズキ亜目に属する魚で、沖縄以南の暖かい海で育つとされています。成魚は1メートル、20kg以上になり、最大では2メートル、70kgというものが漁獲されたこともあります。
独立行政法人水産総合研究センター「おさかな瓦版」から引用:
さかなの「スギ」はスズキ目スギ科スギ属に属する海産魚で、主に温帯から熱帯地方の沿岸域に生息しています。
天然物は希少な割にこれまでは雑魚とされ、築地の魚河岸ではあまり見られませんでした。沖縄では刺身として食べられることもありますが、本土では食卓に上る機会の少ない魚でした。しかし、養殖がしやすい、そして養殖のほうが脂が乗っておいしくなるという特徴がわかったことからブリやカンパチに代わる刺身用の白身魚として注目されるようになりました。日本では沖縄で養殖が行われています。
沖縄で編集されている「沖縄離島ドットコム」さんから引用:
より沖縄らしい食べ物を食べている気がします。白身の魚『琉球スギ』の刺身です。これがまた、カンパチのようなコリコリ食感があって、それでいて脂ものっていて、かなり美味しいです。
日本だけでなく、東南アジアでも養殖が行われていて、中国やフィリピンからの流入がこの10年で増えてきました。
東京で編集されている「日本養殖新聞」から引用:
輸入ものが存在しないブリ類の流通のなかで、国内は無論のこと、中国海南島やフィリピン等で養殖が可能なスギの登場は、輸入ものを取り込んだ消流の確立が求められることとなりそうだ。
そんな中、ベトナムの養殖メーカーはアメリカ向けに大量の養殖スギを出荷して、既に市場で定着させていました。本来は寒帯の海に生息しているサーモン(ベニザケやマスノスケ)の養殖技法を応用して熱帯の海に適したスギなどの養殖量産体制を確立し、北米市場に投入していったのです。
時事通信から引用:
養殖スギを生産するマリンファームベトナム社は(中略)日本市場に定着しているノルウェーサーモンの養殖手法を活用し、質の高い魚を生産しているといい、近年、米国などで大量に消費されている。
スギは別名「クロカンパチ」ともいわれますが、カンパチと近縁ではありません。生物学的には完全に独立した種類を形成しています。
独立行政法人水産総合研究センター「おさかな瓦版」から引用:
スギ属にはこのスギのみが属していて、いわゆる1属1種。
しかし、回転寿司屋などではカンパチとスギを混同して出しているところもあります。実際、刺身用として出回るカンパチの市場価格は近年になって高騰し始めていて、カンパチよりも安く調達できるスギに、カンパチという看板を掛けて売ったとしても全然おかしいことではありません。
時事通信から引用:
今年から同社のスギを扱っている築地市場の卸、第一水産は「味が近いカンパチの相場が高くなっているだけに、まずまずの売れ行き」と話す。
実際、ブリやカンパチとスギの刺身を一緒にして魚屋さんの店頭に並べても、どちらが本物のカンパチなのか見た目にはわかりにくく、味もそんなに変わりがないので、少しでも安く仕入れたい回転寿司チェーンやスーパーマーケット向けに出回るケースが出てきました。そこに目をつけたのが、それら大口需要家向けにネタを卸す商社という訳です。
ブリの旬となるこの冬、魚屋さんでハマチやカンパチの刺身が売られているのを見たら、スギという魚のことを思い出してみてください。そのスギは、ベトナムから来たものかもしれませんよ?