タイの政治情勢悪化で、欧米の多国籍企業が投資をタイからASEAN域内の他国やインドなど南アジア諸国に移す傾向が出てきています。
時事通信から引用:
タイの生活用品生産・販売最大手サハパタナピブン・グループのブンヤシット会長は1日、3月~5月の政治騒乱や非常事態宣言が継続していることについて、消費者の購買意欲や国内での投資状況に影響を与えていると語った。外国人投資家は対タイ投資を控え、代わりにベトナムやバングラデシュ、インドネシアなど他国への投資に向かっていると指摘し、...(後略)
ポストチャイナを探ろうとする動きの中で、欧州への輸出を中心とする企業家であれば、輸出に必要な海上距離が短く労働力人口の絶対数も多いインドやバングラデシュの方が有利であるというのは自ずとわかります。ホーチミンやハイフォンから欧州への海上輸送であればマラッカ海峡を通過しなければなりません。もしこれがインドであればムンバイやゴアを積出港にして最短経路で地中海への入口スエズ運河へ向かえます。
日本企業は「政情不安があっても特に自動車分野では裾野産業の集約が進んでいる」としていいますが、機械産業以外の分野では進出が一巡してしまっているとの見方もあります。既に家庭用品大手の花王、ライオン、アース製薬などがタイで活動。食品分野でも大手はほとんどがタイへの進出を終えて生産が軌道に乗っています。
時事通信から引用:
(サハパタナピブンとの間で)09年~10年の間に商談交渉を行う投資家は全くいなかったという。
そこでベトナムという選択肢が出てくるわけですが、欧米からの大規模な投資はなかなか出てきません。1990年前後に起こったベトナム投資ブームの時に欧米の主要投資銀行が軒並み運用に失敗し、撤退していった苦い経験があるためです。そのために大規模な投資には慎重にならざるを得ません。
ベトナムニュース The Watchから引用:
ヨーロッパ諸国の投資家は非常に慎重で現実的です。彼らの海外進出に伴う投資額は大きな金額となる場合が多く、検討から実行に移すまで時間を要するのです。また、アメリカの投資家にとって、ベトナムは依然として未開の投資先です。
そしてその最たる例がウォルマートストアーズ(アメリカ)のような小売関連企業です。WTO(世界貿易機関)が制度化している外国人投資家への参入規制が障壁になっています。
ビナファイナンスドットコムから引用:
経済需要テスト(Economic Needs Test - ENT)の適用はウォルマートやその他の外国大手小売企業の進出を躊躇させているようである。(中略) (アメリカ人コンサルタントの)バルカー氏はウォルマート等ベトナム小売マーケットに興味を持っているインターナショナルの小売業者は、ベトナムにおいて2店舗以上開店することが確実である場合しかベトナムへ進出しないと語った。
ASEAN圏内のうちタイ、マレーシア、シンガポールで大型ショッピングセンターを展開している欧州有力資本のカルフール(フランス)に至っては、東アジアでの売り上げが世界総売上に占める割合が7.5%しかなく、収益に寄与していないとして売却、撤退する可能性を検討中だとしました。カルフールの場合、日本、韓国からは既に撤退しています。
日本ブルームバーグから引用:
欧州小売り最大手、フランスのカルフールはシンガポールとマレーシア、タイから撤退を計画しており、3カ国の事業の買収先を探している。事情に詳しい関係者4人が明らかにした。
カルフールはASEAN圏から撤退したとしても、中国部門を残すものの、現時点でベトナムに進出してくる可能性は極めて低いといえます。
ベトナムに大規模な投資を仕掛けるのは、多くが東アジアの投資家です。
富士通の完全子会社「富士通総研」のリポートから引用:
中国における欧米企業のプレゼンスが高い状況とは異なり、ベトナムへの外国直接投資は東アジア主導の構造になっている。1988年~2005年までの新規投資認可のストックベースの投資額トップ10は、(1)台湾(構成比15.2%)、(2)シンガポール(同15.0%)、(3)日本(同12.3%)
このランキングでは、欧米諸国の中で最上位のフランスですら6位だといいます。だからこそ日本に対する期待が高まるのは言うまでもありません。そのためにペトロベトナムは、ジェトロに投資セミナーの開催を要請してきた訳です。