中国や台湾から労働コストの安い東南アジアに進出する詐欺師が急増しているようで、タイはおろか、最近はベトナムに拠点を置く輩も出て、関係当局が頭を悩ませています。
 ホーチミンシティ行政機関商工局では、昨年いわゆるマルチ商法を営む法人22社の新規設立を認める代わりに、営業実態が悪質とされた6社の営業認可を取り消しました。そればかりか、最近では中国人や台湾人相手に振り込め詐欺を仕掛ける組織が、健全な会社を装って設立される例もあるといいます。

 東南アジアでのマルチ商法は、その元祖ともいえるアメリカのAmway(アムウェイ)が乗り込んできたのが始まり。1974(昭和49)年、Amwayはアジアへの進出を決め、香港に初の拠点を置きます。1979(昭和54)年には日本へ進出。その後中国本土(1995年)、タイ、マレーシア、シンガポールなどを経て2008年、ついにベトナムにも進出を果たします。Amwayのベトナム進出を受けて同業他社もこぞってベトナム進出を目指すようになり、マレーシアを拠点に業績を伸ばしている「eCosway」などができました。
 ところが、悪質な外国人詐欺師(ゴト師)はAmwayのような「健全な」マルチ商法を装うことを、振り込め詐欺に対する取締りの網から逃れるための隠れ蓑にしているのです。

 日本で2004年に社会問題化した振り込め詐欺は、2009年に入ると取締りが厳しくなり、検挙率も急上昇して一気に下火になり始めました。ところが、日本の手法を真似た振り込め詐欺師が韓国や中国で次々と現れ、ついにはASEAN圏にまで拡大したのです。詐欺師たちは中国本土や台湾向けに国際電話料金の安いASEAN諸国からIP電話やSkypeOutなどの方法で電話をかけまくるようになり、そのため専用のコールセンターを作り、中国語の素養がある現地華僑や、中国人留学生を雇うに至りました。
 実際、タイのチェンマイやバンコクで、振り込め詐欺師が作ったと思われる地下コールセンターが多数摘発されており、特に2009年7月以降は、ほぼ毎月のように摘発事例が地元中国語紙の社会面に掲載されています。タイで摘発事例ができるということは、ゴト師にとってはそれだけ危険になったということの表れであり、欧米人の麻薬ジャンキーと同様にタイを見捨てて他国に流れ出す傾向が出始めるのは、もはや時間の問題ともいえる状況になっていました。
 麻薬ジャンキーがタイに代わる新天地としたのはラオスやカンボジア。ところが、ゴト師は流れる先として、カンボジアに加えベトナムも選んでいたのです。タイの司法省特別捜査局(DSI。日本の東京地方検察庁特捜部に相当)は1月28日、関係機関を交えての協議で、ベトナムにコールセンターを設けてタイ人相手の振り込め詐欺を行っている中国人と台湾人の大物ゴト師がいると指摘、捜査体制を強化することを決めました。

バンコク週報から引用:
 一連の振り込め詐欺の背景には、中国人の男と台湾人の男がいるとみられている。犯人らはベトナムと台湾に「コールセンター」を設置、IPネットワーク上で音声を伝達する「VOIP」を利用してターゲットに接触し、巧みに現金を振り込ませている。

 ベトナムの場合、マルチ商法を行う会社の事業実態を管理するのは自治体(省・市)ではなく、中央政府の商工省競争局だといいます。自治体が営業の許可をするのは、あくまでもその自治体の存するエリア内に本社を置くことを認めるだけです。即ち、2009年にホーチミンシティ行政機関が営業許可を取り消した6社は、ホーチミンシティ行政圏内に本社を置いていたということになります。進出企業が法令違反の営業をしたとしても、自治体は取り締まることが事実上できず、商工省の指示に従って本社の営業許可を取り消す、それ以上の行動は商工省や公安省(警察に相当)に委ねられます。
 さらに他の自治体、例えばダナンに本社を置くとして認可を受けた企業がホーチミンシティに支店を置くと、支店に対してホーチミンシティ行政機関が取り締まることは難しくなるというのです。

 ホーチミンシティ行政当局の説明を解釈すると、ベトナムがマルクス主義的民主集中制を取る過程で、中央集権的な縦割り行政が、振り込め詐欺師にとって進出を容易にし、一方で隠れ蓑をかぶることをもまた容易にしていると見ることもできます。社会主義の原則に反する振り込め詐欺は、当然、封じ込めなければなりません。
 ベトナム政府と地方行政機関では、中国や台湾、タイの捜査当局とも連携を取りつつ、振り込め詐欺集団の壊滅に全力を挙げる意向です。

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