独立行政法人国際協力機構(JICA)ベトナム事務所長・築野元則は25日、ハノイで記者会見し、今年日本からベトナムに向けて新規供与されるODA(政府開発援助)の金額が前年比でマイナスになるとの見通しを明らかにしました。
 築野所長の説明によりますと、2009年はリーマンショック後の世界金融危機による緊急の資金融通を目的とした円借款が5億ドルあり、今年2010年はそれがなくなるため、トータルのODA供与額は昨年比では下回ることになるとしています。ですが、通常の円借款は前年よりも上回るだろうとの見方も示しました。

 2009年11月の「日・メコンサミット」で、内閣総理大臣・鳩山由紀夫はベトナムを含む大メコン圏各国に今後3年間で5,000億円の円借款を新たに供与すると述べており、グエン・タン・ズン首相も聞いています。今回の発言は、一歩間違えばそれに逆行すると取られかねないもので、ベトナム政府ではJICAとJBIC(国際協力銀行)を運営する日本政策金融公庫に対し、説明を求めるとしています。
 日本からベトナムへの2009年のODA供与は、22億ドル(2,023億円)に達しました。この金額は新規に供与の覚書を交わした分のみで、2008年以前からの継続供与分や、過去の供与に対する返済額は含みません。そのうち、2009年11月に供与された5億ドル(450億円)が、リーマンショック後の経済再建にかかる緊急の資金融通で、これを除くと、実際に円借款や無償資金協力といった「形として残る」新規援助は、17億ドル(1,550億円)ということになるのです。築野所長は、会見の席でこの5億ドルを特に強く引き合いに出しました。
 ベトナムはリーマンショック後の世界金融危機の影響を大きく受けることはありませんでした。金相場の上昇に連れたドル高ドン安の方が一時深刻に受け止められたものの、外国からの投資動向には大きな影響を与えていません。ベトナムからの撤退を決めた欧米や日本といった西側先進諸国の大企業もほとんどありません。
 ベトナムは確かに、後発開発途上を脱して日が浅い国です。しかし、次の段階である中進国にまで上がるには、まだまだ長い時間がかかります。社会主義市場経済の深化を目指すベトナムへの継続的な支援こそ、ASEAN全体の行方を左右するとも言えます。

JICAホームページから引用:
 昨秋以降の世界金融・経済危機の影響を受けて経済成長は減速しており、2009年は4~5%程度の実質GDP成長率となる見込みとなっています。ベトナム政府は金融緩和策に加えて財政出動による景気刺激策を講じることで、経済成長の維持に努めており、このベトナム政府の努力を下支えすることが必要となっています(「第8次貧困削減支援借款(景気刺激支援含む)」)。
 本事業は我が国が2009年4月のロンドンサミットにおいて表明した「緊急財政支援円借款」の初めての案件であり、世界的な金融・経済危機の下、税収減等により必要とされる内需拡大政策の実施が困難となっている開発途上国に対し、必要な経済政策の実施に要する資金の供給を機動的に行えるよう「緊急財政支援円借款」実施のために導入された変動金利も取り入れての供与となります。

 これを除いた分が、通常の円借款、即ちJICA、JBICとしての協力スキームだというふうに築野所長は解釈しました。2010年には、南北縦断高速道路の建設が進む他、新幹線計画やその前段階となるハノイ・ノイバイ空港連絡鉄道や新ターミナルなど、大規模な事業の具体化、ないしは着工が控えており、ベトナムにとって「実になる」借款の新規供与は、昨年度よりも増える可能性があるとしたのも、その理由によるものだと解釈できます。
 総工費560億ドル(5兆円)という話もある新幹線が、2010年の1年間で一気に具体化するとはとても思えませんが、それ以前にノイバイ空港連絡鉄道だけで200億円の新規供与がありえます。ノイバイ空港新ターミナルも、バンコク・スワンナプーム空港の2,000億円に比べれば桁違いに小さいとはいえ、日本との密接な関係を象徴するものとして重要な意味があります。
 JICAでは、世界銀行やアジア開発銀行とも連携を取りながら、2010年の新規供与について検討を進めており、順次発表していくとしています。
 ふくちゃんは、今年度もベトナム向けだけで2,000億円前後の新規円借款供与が行われると予想します。一方、返済も250ないし300億円程度行われると想定。返済を差し引いた純新規供与額が、前年比マイナスだという解釈で行こうと思っています。

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