カントー橋は橋梁本体の全長2,750メートル、中央径間550メートル、片側2車線+歩道もついた斜張橋です。バンコクの産業道路橋は本体の長さ700メートルと600メートルの斜張橋2本が連続する形式になっているので、1本の橋で3キロ近い長さというのは東南アジア最大、全世界の斜張橋でも18位という有数の規模になります。

設計を担当した日本工営のプレスリリースから引用:
 PC斜張橋としては世界最大規模の支間となります。主桁はコンクリートの箱桁を基本とし、主径間550mのうち中央部分の210mだけが鋼箱桁となっています。塔もコンクリートで高さは約170mあります。

 ホーチミンシティ行政圏から南西へ170kmのカントー市行政圏に入るまでの間には、途中のティンザン省ミトー市で前江を、そしてカントーの手前で後江を渡らないといけません。以前は両方ともフェリー(渡し舟)でした。バスでも200km弱の道のりを6時間以上かけて走り、カントー市手前のフェリーだけで3時間も待たされることすらあったというベトナム南部最大の交通の難所でした。それが今回のカントー橋開通で、取り付け道路も含めてわずか5分でこの難所をクリアできるようになります。
 前江にも2000年にミートゥアン橋が開通しており、これでホーチミンシティとカントー市の国道1号線で長年ネックとなっていたフェリー輸送はすべてなくなることになります。

カントーで編集されている「MDVN」から引用:
 最も大規模な物は、1997年7月に工事開始、2000年5月に完工した My Thuan橋で、ヴィンロン省とティエンヤン省を結ぶ巨大な斜張橋である。メインスパンが600mの全長1.5kmという規模の橋は、オーストラリア政府が単独で支援した事業の中で最大の3,900万アメリカドルを超える事業であった。

 ということは、ホーチミンシティからのバスがうまく走ってくれれば、カントー市内までわずか3時間に短縮されてしまう計算。ホーチミンシティ・タンソニャット空港とカントーを結ぶ毎日1便のベトナム航空定期便が連日満席に近い搭乗率を叩き出しメコンデルタ地方のビジネスの足になっていますが、そこにも脅威が及ぶかもしれません。
 コメの輸出でも大型船が運航できる港はカントーにはなく、ホーチミンシティ郊外のブンタオ港まで出すことがあります。

みずほ総合研究所「アジアオセアニアインサイト」から引用:
 河川港であるカントー港には1万トン級の船舶しか停泊できず、整備中のカイクイ港完成後でも2万トン級にとどまる。

 従ってトラックはカントー橋を渡ってホーチミンまで安全に貨物を輸送することができ、フィリピンなどへ輸出されるコメの品質向上につながります。

 経済界にはハノイ、ホーチミンシティに次ぐ第3の極としてダナンを推すかカントーを推すかという意見の対立があるといいます。カントーはホーチミンシティからさらに南にあり、南北を縦断する新幹線もホーチミンシティまででカントーまで伸びてくる計画はありません。これに対しダナンは新幹線も通るし大型船の入れる商港もある。普通に見るなら圧倒的にダナン有利ではと思われますが、カントーにも巻き返しのチャンスが出てきました。

みずほ総合研究所「アジアオセアニアインサイト」から引用:
 先行して直接投資の受け入れが進んだ南部・北部は、それぞれホーチミン、ハノイという巨大都市を中核に発展してきたという経緯がある。その意味において、中部、メコンデルタ地方の発展のためには、まずダナンとカントーの台頭が必要であるように思われる。 

 そのカントーの巻き返しを担う最大の武器が、まさにカントー橋です。メコンデルタの胎動が、新たな時代を迎える日。2010年4月24日午後1時、供用開始を迎えたカントー橋の下で、同じことを思った経済人は多いことでしょう。

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