ビナシンの重大危機では、社会主義国の国有企業に残る官僚主義的体質が改めて浮き彫りになりました。社内党委員会も設置される国有企業は、首相や書記長といった党最高幹部も一目置く存在。それゆえに他の政府機関の監視の目が行き届かず、党最高幹部の直接の了承でトップが暴走してしまうという事態になりました。党中央検査委員会が出動しなければ、経営破綻も十分あり得るほどの深刻な状況でした。
 ビナシンは、政府100%出資の国営企業であることから国の責任で処理されることになります。

東京で編集されている「デイリーNNA」から引用:
 グエン・シン・フン副首相は記者会見で、「ビナシンに再建資金を提供するために、政府は必要に応じて、債券の発行を検討する可能性がある」と述べ、ビナシン再建への強い意向を示した。(中略)「ビナシンを破産させれば、造船所や工場が鉄くずの山になってしまう」と述べ、再建の必要性を強調した。

 前にも触れた通り、ビナシンは現時点ではまだ企業としてまったく問題のない「資産超過」の状態にありますが、財務諸表上の貸方と借方の差、すなわち企業としての余裕資産は10億ドルほどしかありません。そこで必要とあれば、国家銀行(国立中央銀行)が国債を発行して、資金繰りを支援するといいます。日本でいうと、独立行政法人ないしは特殊会社(ネクスコグループ=高速道路各社、地方公共団体金融機構など)が国の債務保証を得て債券を発行する「政府保証債」という制度がありますが、これを国家銀行が全額引き受けるものとお考えいただければ早いと思います。

日本語Wikipedia「地方公共団体金融機構」から引用:
 機構としての資金調達では、債券を発行するが、この債券は政府保証の付かない一般担保付債券の扱いとなる。ただし、既発の政府保証債の借換分については引き続き政府保証債となる。なお、2008年11月に第1回の「機構債」(期間10年)500億円の募集が行われたが、国債からのスプレッド幅f29bpと財投機関債並みの発行条件となった。

 ただ、ベトナム国債は海外の機関投資家が引き受けるにはまだまだ不十分です。ハノイとホーチミンシティの証券取引所には国債の市場も設置されていますが、海外投資家にとってはまだまだ投機的と見られているだけに、国債が順調に消化できるかがビナシン再建の鍵となりそうです。
 そして、ビナシンは多角経営を改め、本業であるの船舶の新造と修理に経営資源を集中します。この過程で、自社で建造ないしは購入した船を運航する海運業務から撤退、ビナライン(海運総公社)が受け皿となります。

デイリーNNAから引用:
 フン副首相は、海運事業がビナラインへ譲渡されることについて、「ビナラインは当初困難に直面すると思われるが、海運業に十分な経験を有しており、克服が可能」との見方を示した。(中略)ビナシンが海運用に購入した船舶は、ビナラインに引き渡されており、今後ビナシンには海運業を行わせないという。ビナラインは、ビナシンが購入した船舶36隻を引き受け、そのうちすでに26隻が使用され、残りもまもなく使用される。

 造船と海運が事実上一体で運営される例は、他の諸外国にもあります。ビナシンが目指したのは中国国営のCOSCO(中国遠洋運輸)とよく似た形式でした。COSCOはシンガポールに造船部門の子会社「コスココープシンガポール」を持っており、上場もさせています。日本ではツネイシホールディングス(広島県福山市)が造船(常石造船カンパニー)と海運(神原汽船カンパニー)を同一の会社で運営している例もあります。ビナシンも建造から運航までの一体運営を目指そうとして、不透明な資金運用があったと指摘されています。

デイリーNNAから引用:
 フン副首相は、「ビナシンは『船舶は購入しない』と言明した直後に、船舶を購入した」と、ビナシンが不適切な方法で、船舶を次々に購入したことを指摘した。ビナシンは中古船舶を多数購入し、国家財政に大きな損失をもたらしたとされる。

 また、素材産業部門への投資は多くがペトロベトナムに移されることになりそうです。その結果、新造船の建造と修理のみになり身軽になったビナシンは、数年で赤字体質を脱することができ、国際競争力を取り戻せると政府ではみています。

デイリーNNAから引用:
 再建が順調に進めば、2012年には赤字経営を脱し、13~14年には黒字に転化、15年には新しいビナシンとして安定経営を確立できる。

 赤字を脱するのに2年。そこまでが、ビナシンにとって最大の辛抱のしどころ、逆に言えば勝負時ともいえます。 

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