ビナシン(造船グループ)の経営再建問題で、政府は既に処理に向けた方策を決め、実行に移そうとしています。しかし、政府が処理策を実行するには、ベトナム共産党上層の理解と指導も必要です。党中央も、最高指導部局である政治局にビナシン問題を担当する組織を作ることを決めました。

時事通信から引用(日本国営ラヂオプレス通信からの転電):
 8日のベトナム(国営VNA)通信によると、ベトナム共産党中央委員会政治局は7月31日、巨額の負債を抱えているベトナム造船グループ(ビナシン)について、早急な経営安定化への支援を担当する指導委員会を設立することを決めた。

 ビナシンの重大危機をめぐっては、既に逮捕されているファム・タイン・ビン前会長がグエン・タン・ズン首相ら政府の幹部と癒着し、ワンマン的な経営を進めてきた疑いがもたれています。そこで党中央では、他の国営企業と同様にベトナム共産党によるチェック体制がしっかりと機能するようにすることが再建に向けた社内改革の第一歩になると判断したようです。

時事通信から引用:
 政治局は政府党機関代表団に対し、ビナシンの弱点を直し不正を罰するため、ビナシンが過去に達成した成果を促進していき、(中略)造船および船舶修理産業を先端部門として引き続き是認していく(中略)-といった作業を率先して実践する任務を託した。

 一時は世界5位の受注高を達成したベトナムの造船産業は、社会主義的経済集中の原則に則る形で、ビナシンに集約されています。そうである以上、ビナシンの破綻はベトナムの造船重機産業の壊滅を意味します。隣国には日本から「世界の工場」のお株を奪った中国がいるだけに、万が一ここでビナシンを崩壊させてしまえば、粗鋼生産、新造船受注量の両方でトップを走る中国に独走を許してしまうだけでなく、その後の東南アジア経済の動きにも大きな影響を与えることはいうまでもありません。

ソウルで発行されている「中央日報」から引用:
 韓国は(2007年)1月、60万CGT(標準貨物船換算トン数)を受注したが、中国はその2倍を超える140万CGTを受注した。 全世界発注量280万CGTの半分を中国が占めたのだ。

 後発開発途上国を脱して、これからが発展の正念場となるベトナムにとって、ビナシン倒産は何があったとしても、絶対に避けなければならない事態なのです。

時事通信から引用:
 同社(ビナシン)の倒産や破綻は造船産業の発展や信用格付け、対外債務の履行国の投資環境に悪影響を及ぼす恐れがあるので、これを防ぐ。

 そこで党は、ビナシングループ全体に対して緊急の再評価を行い、必要とあれば対策を講じるように指示しました。

時事通信から引用:
 具体的かつ適切な再整理を実行するため、親会社と子会社、関連企業、投資案件の活動を正確かつ客観的、公正な方法で緊急に再評価する。

 この緊急の再評価というのは、日本でいうと企業再生支援機構が日本航空に対して行った支援決定のための審査にあたるといえます。日本航空の場合は、より素早く再建を完了させるため、短期間といえども法的整理に追い込まなければダメだとの結論になったのは皆さんご存知の通りですが、国営企業に対して資本主義社会でいうところの会社更生手続きをした経験がほとんどないベトナムでは、今回の処理スキームが結果的に国営企業優遇だとの批判を受けることのないよう、これまでのビナシンでは封じ込まれてきた共産党中央の影響力を、外部監視という形で導入しようとしています。そして党は、政府に対して至急の予算措置が必要な部分の処理策をまとめるよう指示しました。

時事通信から引用:
 ビナシンの債務や増資、特にそのうち国家予算に関わるものへの対応をめぐっては、政府に対して、同国の法律や国際的な規則に従って実現可能な策を取りまとめるよう指示。

 ビナシンの再建は、党と国家を挙げた一大プロジェクトとして、5年以内の完結がもはや国際公約と言ってもいい状況になりました。もう後には戻れません。再建を果たさなければ造船重機分野で東北アジア諸国に大きく引き離されてしまいます。それより新幹線を早く決めろとどっかの国の与党がうるさく言っていますが、それ以前に何としてもやり遂げなければいけない、もっと重要なことがあるのです。
 

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