アメリカ・ルイジアナ州沖のメキシコ湾で起こった原油流出事故の影響は、アジアにも及びそうです。事故のあった油田で採掘を行っていた石油メジャー(国際超巨大資本)のBP(英国・ロンドン)は、処理費用捻出のためベトナムに持っている権益を売却せざるを得なくなりそうです。
ロイター通信から引用:
英BPの広報担当者は20日、BPは資産価値推計10億ドルのベトナムのガス田、および関連するパイプラインとガスターミナルの売却を検討していることを明らかにした。
BPは現在、ブンタウ省の沖約300kmの南シナ海上にあるランタイガス田で天然ガスの採掘を手がけており、陸上までのパイプラインも所有しています。しかし、メキシコ湾での原油流出事故に伴う処理費用や地元への補償などで、今後2年以内だけで200億ドルを拠出するとオバマ米大統領に約束させられました。その後も含めたトータルでは数百億ドルの出費を迫られるといい、既存油田から採掘される原油を精製した製品の売り上げだけでは到底、対応しきれる訳がありません。そこで、高い採算性の見込める地域や油田へという「選択と集中」を行い、一度に巨額の手元現金獲得が見込める既存権益の売却も辞さないという方針が打ち出されたようです。
ロイター通信から引用:
BPは、メキシコ湾の原油流出事故の賠償金と清掃費用の支払いのため、資産売却を通して向こう1年間で100億ドルの財源を確保したい考え。
そこで売却するのはどこにするのか。事故のあったアメリカはもちろん、中東やアジアなど、世界規模で俎上に上げられています。日本(BPジャパン、BPカストロール)は自動車用エンジンオイルや船舶燃料用のC重油、工業用潤滑油といった加工製品に事実上販売が特化しているため、撤退したくてもそんなに高い値段で売れる訳がありません。
日経Web刊から引用:
英石油大手BPは20日、同社が北米やエジプトで保有する石油・ガス生産施設など70億ドル(約6100億円)相当の資産を、米石油・ガス大手アパッチに売却すると発表した。(中略)対象は、BPが米国のテキサス州とニューメキシコ州にまたがって保有する石油・ガス生産施設(31億ドル相当)、カナダ西部のガス生産施設(32億5,000万ドル相当)、エジプトで保有する2カ所の採掘権など(6億5,000万ドル相当)。
BPでは西側先進諸国で最大の資産を所有しているアメリカをまず、槍玉に挙げました。例えアメリカであってもBPよりも他社が持ったほうが戦略として価値を高められる、逆に言うとBPが関わっていても全体の戦略上重要ではない、端的に言ってしまえば会社全体の利益への貢献が低いのであれば売却もやむを得ないということのようです。
そこでランタイが俎上に上がったのはなぜか。ランタイ鉱区でBPが権益を持っている鉱区は天然ガスの採掘はできたものの、近くでペトロベトナムが手掛けてきたバクホー油田などと違い、石油の商業生産には至らなかったのです。天然ガスだけの生産では、原油から加工品までを一貫的に手がけているBPにとっては利益は小さく、非中核事業と見られても仕方なかったといえます。
BP以外では、日本の出光興産やJX日鉱日石エネルギーが自社の持つ最先端の探鉱、採掘技術をバックに権益を獲得した鉱区で原油の商業生産に漕ぎ着けており、この点でも技術面で出遅れたBPには不利な点です。世界5位の超大企業であっても、選択と集中というグローバル資本主義の原則には抗し切れません。
これに対し、インド政府とペトロベトナムが組んで、権益の買収を目指しているとの報道がなされました。
ロイター通信から引用:
インドのデオラ石油相は22日、ロイターに対して、インド石油ガス公社(ONGC)とペトロベトナムは、BPが保有するベトナムの海洋ガス田の権益を共同で取得することを検討していると述べた。
23日にハノイで行われるASEAN地域フォーラムを前にハノイ入りしたデオラ氏は、グエン・タン・ズン首相との会談で合意に達したとしており、近くBPとの交渉に入るとの見方を示しています。この鉱区ではONGCの子会社が45%の権益を持っているため、BPの持つ権益を引き取ることが可能だとONGCは判断しています。
日経Web刊から引用:
プロジェクトの資産総額は13億ドル(約1100億円)で、同国の発電能力の約30%を占める。BPは同ガス田で35%、パイプラインで32%の権益を持つ。ONGCも子会社を通じ、同ガス田で既に45%の権益を保有する。
ただし、ペトロベトナムも一定の権益を押さえる必要があるため、買収完了後の権益保有比率について両国間で調整が行われる予定です。